こんにちは、愛知・岐阜の注文住宅&リフォーム 長久手Studioです。
住宅建築のプロが納得できる家づくりのヒントをお話しするこのブログ。
今回のテーマは「メンテナンスコストを考えた仕上げ材の選び方」です。
何十年も暮らす住宅にメンテナンスはつきものです。
だいたい20年くらいしたら足場を組んで屋根や壁を塗りなおしている家をよく見かけますよね。
マンションを購入したら修繕積立金を必ず払わなくてはいけないように、戸建ての場合も将来のメンテナンス費を考慮して建築する必要があります。
ただし、メンテナンスコストがかからないものは新築時の費用(イニシャルコスト)が高いものが多い傾向も。
例えば瓦は約100年メンテナンスフリーですが、イニシャルコストはほかの屋根材より割高です。
壁材や床材でも同じで「予算内で、住み始めてからできるだけお金がかからないものをいかに選ぶか」は家づくりの大きな悩みのひとつです。
今回は屋根・外壁・内壁・床の各仕上げ材のイニシャルコストとメンテナンスコストを比較。
どの材料を選ぶといつどのくらいのメンテナンス費がかかるかをまとめ、50年間のトータルコストを算出してみました。
仕上げ材選びの参考にしてください。
ちなみにトータルコストで最もコスパがよかったのは屋根・外壁が板金(ガルバリウム鋼板)+床が杉無垢材(節あり)+壁・天井がクロスでした。
とはいえ、家はコスパだけで決めるものではありませんから、あくまで参考にご覧ください。
●外壁材のコスパ比較
●内壁+天井材のコスパ比較
●床材のコスパ比較
●住宅設備の交換時期と費用のめやす
Contents
今回の設定と注意事項
今回は下記の設定でイニシャルコスト・メンテナンスコストを比較しました。
建物:総2階建て・切妻屋根、延床面積30坪
メンテナンス期間:50年間
だいたい30代で新築して80代まで住んだ場合のシミュレーションです。
注意事項はこちらです。
●おもに中島工務店で使用している仕上げ材について検討。
●金額は現在のめやす。税別。
●実際にメンテナンスする20~50年後にはどの仕上げ材も価格が高くなっているはず。
●総2階・切妻屋根という非常にシンプルな例なので、実際には建物の形状によってさらに費用がかかるケースがある。
●足場費用は別途計上。15万円~を想定。
●台風や豪雨等の災害による破損や雨漏りは考慮しない。
今回は屋根と外壁を別々に検討しましたが、実際には足場を組んだときに同時に塗り替えてしまうのが一般的です。
よって足場費用は別途計上としました。
今回の設定の建物の場合、足場費用15万円~とお考えください。
屋根材の50年トータルコスト比較
取り上げる屋根材は和瓦・平板瓦・板金(ガルバリウム鋼板)です。
瓦は約100年メンテナンスフリーなので、和瓦・平板瓦はメンテナンスコストは0円です。
板金はだいたい20年ごとに塗り直しが必要です。
イニシャルコストも含めて表にまとめるとこんな感じ(※足場代別途15万円~)。
和瓦 | 平板瓦 | 板金 | |
---|---|---|---|
イニシャル(新築時) | 110万円~ | 100万円~ | 80万円~ |
塗り直し1回目 | 0円 | 0円 | 20万円~ |
塗り直し2回目 | 0円 | 0円 | 20万円~ |
合計 | 110万円~ | 100万円~ | 120万円~ |
イニシャルコストが最安だった板金がトータルコストでは瓦を上回りました。
とはいえその差は10万円ほど。
このくらいなら好みを優先したいというお客様も多そうですよね。
のちほどお話しますが、瓦はメンテナンスフリーでもその周辺の部材である破風、鼻隠しなどにメンテナンスが必要なケースがあります。
このときには結局足場を組まなくてはいけなくなるので、それらも含めて考えましょう。
ちなみに、中島工務店では使いませんが比較的よく使われるカラーベスト(スレート屋根)はイニシャルコストは板金より安いですが、20年で塗り直し・30~40年で葺き替えが必要になります。
カラーベストはメンテナンスコストが最もかかる仕上げ材なので注意しましょう。
外壁材の50年トータルコスト比較
取り上げる外壁材はタイル・そとん壁・モルタル下地+リシン吹付・無塗装サイディング下地+リシン吹付・化粧サイディング・板金(ガルバリウム鋼板)です。
中島工務店ではタイルと化粧サイディングはほぼ使いませんが、一般的によく使われるので一緒に検討しておきます。
この中でタイル・そとん壁・板金は50年間メンテナンスフリーです。
モルタル下地+リシン吹付・無塗装サイディング下地+リシン吹付・板金は20年ごとに塗り直しが必要です。
イニシャルコストを含めて表にしました(※足場代別途15万円~)。
タイル | そとん壁 | モルタル+リシン吹付 | |
---|---|---|---|
イニシャル(新築時) | 400万円~ | 200万円~ | 170万円~ |
塗り直し1回目 | 0円 | 0円 | 40万円~ |
塗り直し2回目 | 0円 | 0円 | 40万円~ |
合計 | 400万円~ | 200万円~ | 250万円~ |
サイディング+リシン吹付 | 化粧サイディング | 板金 | |
---|---|---|---|
イニシャル(新築時) | 150万円~ | 150万円~ | 140万円~ |
塗り直し1回目 | 55万円~ | 55万円~ | 0円 |
塗り直し2回目 | 55万円~ | 55万円~ | 0円 |
合計 | 260万円~ | 260万円~ | 140万円~ |
タイルはメンテナンスコストがゼロとはいえ、イニシャルが飛びぬけて高いですね。
はい、誰でも選べる仕上げ材ではありません・・・。
現実的なところでいうと、イニシャルでほかより50万円ほど高かったそとん壁がトータルコストでは板金に次いで下から2番目となりました。
トータルコストの差は60万円~。
当社でも「そとん壁かリシン吹付か」で悩むお客様は多いのですが、確かに難しい選択ですね。
新築時に外壁にお金をかける余力が少しでもあるなら、そとん壁がオススメです。
汚れが気になったら
ところで、これを見ると「メンテナンスフリーって言っても20年もしたら汚れが・・・」という声が聞こえてきそうです。
屋根や外壁のメンテナンスのおもな目的は防水です。
表面が劣化することによって建物内部に水が入ってしまうと、躯体が傷んでもたなくなってしまうからです。
劣化対策としてのメンテナンスは不要でも汚れが気になる場合は洗いましょう。
洗う費用は10万円~(※足場代別途15万円~)。
コーキングについて
外壁でもうひとつ気になるのがコーキングです。
コーキングとは部材と部材のつなぎ目を埋めるもので、防水性や気密性を高めるために使われます。
タイルの目地をイメージしていただくとわかりやすいです。
例えば、サイディングではボードとボードの間をコーキングで埋めています。
コーキングは10年もたずに劣化してきます。
劣化すると内部に水が入りやすくなるので10年程度で打ち直した方がよいのですが、実際には20年くらいで外壁を塗り直すまでそのままにしているケースがよく見られます。
さすがにコーキングのために足場を組む人はほとんどいませんから。
そういうわけで、今回はコーキング単体でのメンテナンス費は考慮しませんでした(外壁塗り直しのときにはコーキングも打ち直してくれます)。
なお、タイル・そとん壁・モルタル下地+リシン吹付ではコーキング箇所が非常に少ないため(サッシまわりくらい)、コーキングの劣化の不安もほとんどない外壁材だといえます。
内壁+天井の50年トータルコスト比較
続いて内壁+天井です。
中島工務店では壁は左官やクロスで仕上げて天井に木を張るケースが多いのですが、今回はわかりやすくするために内壁も天井もすべて同じ仕上げ材を使うと想定しました。
取り上げるのは漆喰・中霧島壁(シラス壁)・珪藻土・クロスです。
上記4つのうち、メンテナンスが必要なのはクロスのみで50年のあいだに1度は張り替えたいところです。
塗り壁は通常塗りなおすことはなく、経年変化を楽しみます。
イニシャルコストを含めて表にまとめてみました。
漆喰 | 中霧島壁 | 珪藻土 | クロス | |
---|---|---|---|---|
イニシャル(新築時) | 130万円~ | 90万円~ | 70万円~ | 30万円~ |
張替 | 0円 | 0円 | 0円 | 35万円~ |
合計 | 130万円~ | 90万円~ | 70万円~ | 65万円~ |
張り替えてもクロスが最もコストが抑えられるという結果になりました。
塗り壁も汚れが気になる場合は上から塗ることができます。
その場合の費用は初回と同様です。
床材の50年トータルコスト比較
床材で取り上げるのは桧上小節(節がほとんどない)、杉節あり、カラーフロアです。
無垢の床は塗り壁同様、基本的には張り替えずに経年劣化を楽しみます。
カラーフロアは耐用年数が10~15年程度です。
実際に10年で張り替えるケースはあまり見かけませんが、50年のあいだには最低1回は張り替えることになるでしょう。
桧 上小節 | 杉 節あり | カラーフロア | |
---|---|---|---|
イニシャル(新築時) | 40万円~ | 20万円~ | 28万円~ |
張替 | 0円 | 0円 | 28万円~ |
合計 | 40万円~ | 20万円~ | 56万円~ |
イニシャルコストでもトータルコストでも杉節ありが最安です。
カラーフロアは複合フローリングの一種で合板フローリングの表面に化粧シートを貼ったものですが、表面の化粧材に木を使ったより見た目や手触りのよい床材も増えています。
これらはカラーフロアよりイニシャルコストが高くなるため、トータルコストはさらに高くなります。
無垢の床は経年変化を楽しめますが、汚れが気になる場合は表面を削ることができます。
無垢材ならではの方法ですね。
削る費用は15万円~といったところです。
破風・鼻隠しなどのメンテナンス費用
屋根のところで少し触れましたが、実際には屋根と壁のほかに破風や鼻隠しなど周辺の部材もメンテナンスが必要です。
塗り直し費用は1回あたり10万円~(※足場代別途)。
50年のあいだには3回程度塗りなおすのがおすすめですが、実際には足場を組んだときに屋根+外壁+破風・鼻隠しなどをまとめてメンテナンスします。
よってメンテナンス費は20万円~。
なお、破風や鼻隠しを板金で巻いておけばメンテナンスフリーです。
軒天も雨に当たりにくく劣化しにくい場所なので、あまり塗り直しの必要はありません。
住宅設備の交換時期と費用のめやす
ここで住宅設備についても確認しておきましょう。
住宅設備は経年劣化で必ず使えなくなる日が来ますし、全体でみると大きな費用を占めます。
おもな住宅設備の交換時期と費用をまとめました。
交換時期 | 1回あたりの費用 | 50年間の費用 | |
---|---|---|---|
バス・トイレ・キッチン・洗面台 | 20年~ | 250万円~ | 250万円~ |
給湯器 | 10~20年 | 20万円~ | 40万円~(最低2回交換) |
エアコン | 10年~ | 10万円~/台 | 50万円~(最低1回、4~5台交換) |
住宅設備合計で約340万円~となりました。
給湯器は早ければ10年を過ぎると故障する恐れがあり、少なめに見ても50年で2回交換が必要です。
エアコンもどのくらいで交換するかはケースバイケースですが、50年のあいだに1回は交換しなくてはいけないでしょう。
つまり上記の表はやや少なめに見積もっていて、実際にはもう少しかかる可能性があります。
ちなみに床暖房は意外と壊れにくく、50年なら壊れずに使えるのではないかと予測します(実際に50年前使った床暖房はないので予測ですが)。
また現在の方式なら、壊れたとしても修理費はそれほど高くつかないため今回の計算には含みませんでした。
トータルコストを抑えられる組み合わせ
ここまでの内容から、トータルコストを最も抑えられる組み合わせはというと。
冒頭にも書きましたが、屋根+外壁が板金、内壁+天井がクロス、床が杉節ありです。
必要なメンテナンスは
●屋根の塗り直し2回 20万円~
●足場2回 30万円~
●クロスの張替え1回 35万円~
の合計85万円~です(住宅設備を除く)。
50年間のメンテナンス費試算
さて、ではメンテナンス費としてどのくらい準備しなければいけないのかを試算しましょう。
いずれも最も費用がかかる場合はこちら。
※イニシャルコストは無視します。
50年間のメンテナンス費 | |
---|---|
外まわり(屋根:板金塗装、外壁:サイディング+リシン吹付、破風鼻隠し塗装)×2回 | 170万円~ |
内部(床:カラーフロア、壁:クロス) | 63万円~ |
住宅設備 | 340万円~ |
足場2回 | 30万円~ |
合計 | 603万円~ |
最もかかる場合を組み合わせましたので、実際にはもう少し抑えられるでしょう。
一方、最も費用がかからない場合はこちらです。
50年間のメンテナンス費 | |
---|---|
外まわり(屋根:瓦、外壁:そとん壁、破風鼻隠し板金巻き) | 0円 |
内部(床:無垢材、壁:塗り壁) | 0円 |
住宅設備 | 340万円~ |
足場 | 0円 |
合計 | 340万円~ |
つまり50年間のメンテナンス費用は340~600万円程度見込んでおく必要があります。
1カ月あたりに換算すると5,700~10,000円です。
分譲マンションの修繕積立金の平均が12,268円(国土交通省 平成30年度マンション総合調査結果より)なので、やはり建物のメンテナンス費はこのくらいはかかると考えた方がよさそうですね。
今回はとても単純に計算しましたが、建物の大きさや形、周辺環境によってもメンテナンスの必要度合いやコストは変わってきます。
新築のときにはついついイニシャルコストに目が行きがちですが、メンテナンスコストにも気を配りながら計画するのが大切です。
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